介護離職と組織開発。
一見すると、この2つはあまり関係がないように思われるかもしれません。
介護離職対策というと、多くの企業ではまず制度の整備を思い浮かべます。
介護休業制度、時短勤務制度、相談窓口の設置など、社員が介護と仕事を両立するための仕組みを整えることはもちろん重要です。
しかし、制度があるだけで、本当に社員は相談できるのでしょうか。
実際には、制度が整っていても、社員が誰にも相談できないまま、ある日突然退職を選んでしまうことがあります。
介護の問題は、本人が声を上げなければ職場から見えにくいものです。
だからこそ、介護離職対策を企業が考えるうえでは、制度づくりだけでなく、「何でも相談できる風土づくり」が欠かせません。
今回は、介護離職防止と組織開発の関係について、現在進行している取り組みで社会福祉法人福竹会の事例を元に考えていきます。
この記事を書いた人

松本 瑞夫
組織開発コーチ
14年間勤めた金融機関で、営業マンとして介護・医療分野の共済商品を県内販売件数No.1に導き、2019年に独立起業。
以降、経営者・個人事業主向け有料コーチングセッションを1,000時間以上実施し、研修・講座では延べ1,500名以上のマネージャー層・営業マンの成長に貢献しています。
現在は、「ウェルビーイングが高まる組織開発」を軸に、ビジネスコーチ育成、オンラインコミュニティHIROGARU®運営、YouTubeチャンネル運営、将棋経営塾®など多岐にわたる事業を展開。
介護離職対策を企業が考えるときに見落としがちなこと

介護離職を防ぐためには、制度を整えることが必要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
なぜなら、制度があっても、社員がその制度を使う前に相談できなければ、離職を防ぐことは難しいからです。
介護の悩みは、職場で話しづらいテーマのひとつです。
「家庭の事情をどこまで話していいのかわからない」
「上司に迷惑をかけるのではないか」
「相談しても、どうにもならないのではないか」
そう考えているうちに、社員が一人で抱え込んでしまうことがあります。
そして、周囲が気づいたときには、すでに退職の意思を固めている。
このようなことが、介護離職の現場では起こり得ます。
制度はあるのに、相談されずに辞めていく
企業が介護離職対策として制度を用意していても、社員が相談しなければ、その制度は使われません。
制度は、存在しているだけでは機能しないのです。
大切なのは、社員が「相談してもいい」と思えることです。
そのためには、日頃から何でも話せる雰囲気があるかどうかが重要になります。
介護の問題が起きてから急に相談しやすい職場をつくることはできません。
普段から対話があり、困ったときに声を上げられる関係性があるからこそ、社員は介護の悩みも相談できるようになります。
なぜ介護離職対策には組織開発が必要なのか

介護離職対策というと、制度や仕組みの話になりがちです。
もちろん、制度は必要です。
しかし、制度を社員が実際に使える状態にするには、その土台となる組織の風土が必要です。
ここで重要になるのが、組織開発の視点です。
組織開発とは、単に研修を行うことではありません。
組織の中に対話を生み、関係性を整え、困ったときに相談できる文化をつくっていく取り組みです。
介護離職対策においても、この視点は大きく関わっています。
相談しやすい組織づくりが介護離職防止につながる
介護の悩みは、突然大きな問題として表面化するとは限りません。
最初は、親の体調が少し心配だという程度かもしれません。
しかし、その小さな不安を誰にも相談できないまま抱え続けると、やがて仕事との両立が難しくなっていきます。
そのときに、職場の中に相談しやすい空気があるかどうか。
上司や同僚に話してもよいと思える関係性があるかどうか。
これが、介護離職を防ぐうえで大きな分かれ目になります。
制度だけでなく、相談しやすい組織づくりが必要なのはこのためです。
介護離職対策は「対話できる文化づくり」でもある
介護離職を防ぐためには、社員が早い段階で相談できることが大切です。
そのためには、企業の中に対話できる文化が必要です。
介護の話をしてもよい。
困っていることを話してもよい。
すぐに答えが出なくても、一緒に考えてもらえる。
そうした空気があることで、社員は一人で抱え込まずに済みます。
介護離職対策は、制度の整備だけではなく、対話できる文化づくりでもあります。
福竹会の取り組みから見える現在進行形の好事例

今回の実例として挙げさせていただくのが、現在実施している福竹会の取り組みです。
この取り組みは、すでに完了した成果として紹介するものではありません。
今まさに進行している取り組みです。
だからこそ、介護離職防止に向けて、組織としてどのように動いているのか、その過程を見ることが重要だと考えています。
元々よい文化を持つ組織が、さらに挑戦している
福竹会は、元々よい文化を持つ組織として捉えられています。
そのうえで、他の企業がまだ十分にできていないことに挑戦している。
この点が、今回の取り組みを見るうえで重要なポイントです。
つまり、問題があるから仕方なく取り組んでいるというよりも、すでにある組織の良さを土台にしながら、さらに一歩踏み込んでいる事例だと言えます。
介護離職対策を企業が考えるとき、問題が起きてから対応するのではなく、組織として早い段階から向き合う姿勢が求められます。
福竹会の取り組みは、そのひとつの例として見ることができます。
福竹会が自発的に取り組み、講師が見守る構図
今回の取り組みでは、アンケートのビフォーアフター、参加者の上司全員からの応援コメント、事務局の巻き込みなどが挙げられています。
ここで大切なのは、これらを講師側の仕掛けとして見せるのではないという点です。
福竹会が自発的に取り組み、講師がその取り組みを見守っている。
その構図で捉えることが重要です。
介護離職防止の取り組みは、外部の専門家が一方的に何かを導入すれば終わるものではありません。
組織の中の人たちが、自分たちの課題として捉え、関わっていくことが必要です。
その意味で、福竹会の取り組みは、組織全体で介護離職防止に向き合う現在進行形の事例だと言えます。
完了した成果ではなく、続いていく取り組みとして見る
この取り組みは、来年1月以降まで続く現在進行しているものです。
そのため、現時点で「成果が出ました」と完了形で語るものではありません。
むしろ大切なのは、取り組みが続いていることそのものです。
介護離職対策や組織開発は、一度研修を行えば終わるものではありません。
組織の中で対話を続け、関係性を育て、必要な改善を重ねていくものです。
だからこそ、今この段階の取り組みにも意味があります。
組織開発に「終わり」はない

介護離職防止と組織開発を考えるうえで、もうひとつ重要な視点があります。
それは、組織開発に終わりはないということです。
たとえアンケートのビフォーアフターが見えたとしても、それは一時点の変化にすぎません。
組織は日々変化します。
社員の状況も変わります。
介護の問題も、ある時点で完全に終わるとは限りません。
だからこそ、組織として継続的に向き合い続けることが必要です。
ビフォーアフターだけでは捉えきれない組織の変化
研修や取り組みの成果を示すとき、ビフォーアフターはわかりやすい指標になります。
しかし、組織開発は一時点の変化だけで捉えきれるものではありません。
大切なのは、変化が連続していることです。
一度の取り組みで終わるのではなく、組織としてやり続ける。
この継続性こそが、組織開発の本質です。
介護離職対策も同じです。
制度を整えて終わりではなく、社員が相談できる状態をつくり続けることが求められます。
支援のプロだからこそ見えにくい足元の課題

今回の視点は、介護サービスを提供する組織にとっても重要です。
介護サービスのプロであっても、自社社員の介護離職となると見えにくいことがあります。
外部の利用者や家族を支えることには長けていても、自社の中で起きている社員の介護問題には光が当たりにくい。
これは、介護施設だけの問題ではありません。
あらゆる企業に共通する課題です。
外を支える組織ほど、自社の中が見えにくいことがある
介護サービスを提供している組織は、日々、利用者やその家族を支えています。
だからこそ、介護の専門性や支援の力を持っています。
しかし、その一方で、自社で働く社員が家族の介護に悩んでいる場合、その問題が見えにくくなることがあります。
外を支えることに意識が向くほど、足元の課題に気づきにくくなる。
この視点は、介護事業者だけでなく、すべての企業にとって大切です。
社員の離職防止を考えるなら、その中には介護離職防止も含まれます。
企業が介護離職対策として今考えるべきこと

介護離職対策を企業が進めるうえで、まず制度の整備は必要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
社員が相談できる風土があるか。
上司や同僚が、介護の悩みを受け止められる関係性を持っているか。
組織として、介護の問題を一人の社員だけの問題にせず、対話の中で支えられる状態をつくれているか。
こうした視点が必要になります。
制度を機能させるために、相談できる風土をつくる
制度は、社員が使えてこそ意味があります。
そのためには、制度の内容を整えるだけでなく、社員が早い段階で相談できる空気をつくる必要があります。
「困ったら相談していい」
「介護のことを話してもいい」
「会社として一緒に考える」
そうした風土があって初めて、制度は実際に機能します。
介護離職防止を一時的な施策で終わらせない
介護離職対策は、一時的な施策で終わらせるものではありません。
組織開発と同じように、継続して取り組む必要があります。
社員の状況は変化します。
家族の介護状況も変わります。
組織の中で働く人が変われば、必要な支援の形も変わります。
だからこそ、企業は介護離職対策を単発の制度導入としてではなく、組織づくりの一部として捉えることが大切です。
まとめ|介護離職対策は企業の組織開発と切り離せない
介護離職対策は、制度を整えるだけでは十分ではありません。
制度があっても、社員が相談できなければ、実際には使われないまま終わってしまう可能性があります。
だからこそ、企業には、社員が何でも相談できる風土づくりが求められます。
介護離職防止は、単なる人事制度の問題ではありません。
対話できる文化をつくり、困ったときに声を上げられる関係性を育てる、組織開発のテーマでもあります。
福竹会の現在進行形の取り組みから見えてくるのは、介護離職対策を企業が本気で考えるなら、制度と組織開発を切り離して考えることはできないということです。
社員が一人で抱え込まず、早い段階で相談できる組織をつくること。
それが、介護離職を防ぐための大切な一歩になります。

