【支援事例】支援を拒む親と遠距離介護に悩む家族をどう支えるか。

親の介護が必要かもしれない。

そう感じていても、すぐに介護サービスにつながれるとは限りません。

特に、親が遠方で一人暮らしをしている場合、電話では「大丈夫」と言われても、実際の生活状況までは見えにくいものです。

さらに、本人が地域包括支援センターや介護サービスなどの支援を拒んでいる場合、家族は「心配だけれど、どう動けばいいのかわからない」という状態に陥りやすくなります。

今回ご紹介するのは、遠方に住む親の生活に不安を感じながらも、仕事を抱え、十分に現地へ行くことができず、ひとりで悩みを抱えていたご家族の相談事例です。

この事例から見えてくるのは、遠距離介護 支援において本当に必要なのは、制度の案内だけではなく、家族と本人の間に立ち、信頼関係を築きながら伴走する第三者の存在だということです。

この記事を書いた人

中澤 友紀
正看護師

訪問看護ステーションや定期巡回随時対応型訪問介護看護の管理者として、10年以上にわたり在宅ケアの最前線に携わりました。

「兵庫県定期巡回随時対応型訪問介護看護協議会」の設立に関わり会長に就任するなど、普及促進事業を通じ多くの利用者様とご家族を支援。

私生活では2児の母。長年パーキンソン病の母を在宅で介護し、看取りまでを経験した元ケアラーでもあります。

現在は、自身の経験と専門知識を活かし、企業の「介護離職防止支援」や無料介護相談窓口「これからサポート」を運営。

目次

遠距離介護では「親の大丈夫」が本当に大丈夫とは限らない

今回の事例は、80代の女性が一人暮らしをされていたケースです。

ご本人には、公共料金、特に電気代の未払いが発生しており、暗闇の中で生活している状況がありました。

こうした状況から、生活維持能力の低下が見られ、セルフネグレクトや認知症の初期症状の疑いも考えられる状態でした。

一方で、ご家族である娘さんは遠方に住んでおり、仕事を持ちながら多忙な日々を過ごされていました。

頻繁に電話で状況を確認していたものの、物理的な距離があるため、実際の生活状況を把握することには限界を感じていました。

今回の支援事例|80代・独居の親に起きていた生活上の異変

今回の事例では、遠方に住む娘さんが、一人暮らしをする80代のお母さまの生活状況に不安を感じていました。

電話では「大丈夫」と話していたものの、実際には電気代の未払いが発生し、暗闇の中で生活している状況がありました。

ここから見えてくるのは、遠距離介護において、家族が電話だけで実態を把握することの難しさです。

電気代の未払いから見えた生活維持能力の低下

このケースでは、電気代の未払いが発生し、暗闇の中で生活している状況がありました。

これは単なる支払い忘れではなく、生活を維持する力が低下している可能性を示すサインでもあります。

セルフネグレクトや認知症の初期症状が疑われるような状況であり、ご家族としても見過ごすことができない状態でした。

遠方に住む娘さんが感じていた実態把握の限界

娘さんは、電話で頻繁に状況を確認していました。

しかし、電話越しでは「大丈夫」と言われても、実際の生活状況までは見えません。

遠方に住んでいるため、すぐに駆けつけることも難しく、実態を正確に把握することに限界を感じていました。

遠距離介護で起こりやすい課題|本人が支援を拒むケース

このケースで大きな課題となっていたのが、ご本人による支援の拒否です。

地域包括支援センターなどの公的な介入に対して、ご本人が強く拒んでおり、ご家族である娘さんからの説得も通用しない状況でした。

地域包括支援センターなどの公的支援を拒否していた状況

介護や生活支援が必要と思われる状況であっても、ご本人が支援を受け入れないことがあります。

今回のケースでも、ご本人は地域包括支援センターなどの公的介入を強く拒んでいました。

ご家族が説得しようとしても受け入れてもらえず、娘さんはどう動けばよいのか悩まれていました。

電話での「大丈夫」と実際の生活状況にあった大きなズレ

電話越しでは、ご本人は「大丈夫」と話していました。

しかし実際には、電気が止まっているという深刻な事実がありました。

本人の言葉と現実の生活状況との間に、大きな乖離が生じていたのです。

帰省しても短時間しか対応できない物理的な壁

娘さんは遠方に住んでいるため、帰省できたとしても短時間しか滞在できません。

その限られた時間の中で、専門職との面談や実家の環境改善に十分な時間を割くことは難しい状況でした。

遠距離介護では、この物理的な距離が大きな壁になります。

支援を拒む親に対して専門職が行ったアプローチ

このような状況に対して、専門職である看護師・理事が行ったのは、無理に制度につなげることではありませんでした。

まず大切にしたのは、「急がば回れ」の信頼構築です。

無理に介護サービスへつなげず、まずは信頼関係を築く

介護保険などの支援制度をすぐに当てはめようとするのではなく、まずは定期訪問による世間話から始めました。

支援を拒む方に対して、いきなり制度やサービスの話をしても、心を閉ざしてしまうことがあります。

だからこそ、まずはご本人との関係性を築くことを優先しました。

家族ではなく第三者が関わることで心の扉を開く

家族が直接関わると、どうしても感情的になりやすい場面があります。

そのような場面に専門職が第三者として介入することで、ご本人の「心の扉」を少しずつ開いていくプロセスを大切にしました。

家族と専門職が連携し、適切なタイミングを見極める

娘さんとはショートメールなどで細かく連携を取りました。

現場で見えた事実をフィードバックしながら、どのタイミングでどのように動くべきかを一緒に考え、適切なタイミングを待つ戦略を提示していきました。

ご本人とご家族の間に立つ「繋ぎ役」として伴走していたのです。

遠距離介護を担う家族が抱える心理的・時間的な負担

この事例の背景には、遠距離にいるご家族の大きな心理的負担があります。

娘さんは、母親からの「大丈夫」という言葉を信じたい気持ちを持っていました。

しかし一方で、実際には生活が破綻しかけているのではないかという恐怖も抱えていました。

「信じたい気持ち」と「見えない不安」の板挟み

信じたい気持ちと、見えない不安。

その板挟みの中で、仕事をしながら日々を過ごしていたのです。

親の言葉を信じたい一方で、実際には生活が崩れ始めているかもしれない。

その不安は、遠方にいる家族にとって大きな心理的負担になります。

仕事の合間も介護のマネジメントに追われる現実

さらに、仕事の合間に毎日電話をし、専門職との調整やショートメールでのやり取りも行っていました。

業務時間外や休憩時間も、常に「介護のマネジメント」に追われている状態です。

その結果、心理的な休息を取ることが難しくなっていました。

家族だけで遠距離介護を抱え込むリスク

このような状況を家族だけで抱え込んでしまうと、大きなリスクにつながる可能性があります。

たとえば、「母が拒否しているから仕方ない」と思い、そのまま状況を放置してしまうことがあります。

支援拒否を理由に放置すると重大な事故につながる可能性

生活環境が悪化したまま支援につながらなければ、火災や熱中症、孤独死などの致命的な事故につながる可能性もあります。

「本人が拒否しているから仕方ない」と思っていても、状況が深刻化してからでは対応が遅れてしまうことがあります。

介護離職や長期休業につながる前に必要な支援

事故や急変が起きてから対応しようとすると、ご家族は突発的な介護離職や長期休業に追い込まれるリスクが高まります。

介護の問題は、ある日突然始まるように見えることがあります。

しかし実際には、その前段階でご家族が不安を抱え、仕事をしながら何とか対応し続けている時間があります。

企業が見落としやすいビジネスケアラーの高ストレス状態

この事例から見えてくるのは、企業側が見落としがちなリスクです。

当該社員は、職場では「親の体調が少し心配で……」という程度の報告に留めている可能性があります。

職場では見えにくい「親の生活不安」という心理的負荷

実際には、親の家の電気が止まっているという、仕事に集中するのが難しいほどの心理的負荷を抱えながら業務を行っているかもしれません。

表面上は通常通り働いているように見えても、内側では高ストレス状態に置かれていることがあります。

社員の生産性低下や離職リスクは早い段階から始まっている

遠距離介護の問題は、社員本人が職場で詳しく話しづらいことも少なくありません。

そのため、企業側が気づかないうちに、社員の生産性低下や離職リスクが進行していることがあります。

企業にとっての損失は、介護保険が始まってからではなく、家族が不安を抱え始めた段階から始まっているのです。

介護休業制度だけでは遠距離介護の問題を解決しきれない理由

もちろん、介護休業制度や短時間勤務制度は重要です。

しかし、制度が整っているだけでは解決できないケースもあります。

本人が支援を拒んでいる段階では制度を使いづらい

今回のように、本人が支援を拒否している段階では、社員は何にその制度を使えばよいのか判断できません。

介護サービスにつなげたいと思っても、本人が拒否している。

地域包括支援センターに相談したいと思っても、本人が受け入れない。

そのような状態では、制度を使う前の段階で立ち止まってしまいます。

公的サービスにつながる前の「信頼構築」が最も難しい

公的サービスにつながる前段階、つまり、親を説得し、信頼関係を築いていくプロセスこそが、最もエネルギーを必要とします。

そして、この期間に伴走してくれる存在がいないことが、ビジネスケアラーを離職へ追い込む真因になることがあります。

介護離職を防ぐために企業ができる遠距離介護支援

介護離職を防ぐためには、介護の問題を「家族の努力」だけで解決しようとさせないことが大切です。

特に、親の説得や帰省による対応だけに頼ってしまうと、働く社員の負担は大きくなります。

家族の説得や帰省だけに頼らせない支援体制をつくる

介護の問題を、家族の説得や帰省だけで解決しようとすると、社員の負担は増えていきます。

必要なのは、社員が一人で抱え込まないための支援体制です。

外部の専門家に早期相談できる環境を整える

必要なのは、早期の段階で外部の専門家に相談できる環境です。

現場の泥臭い対応、たとえば定期訪問による信頼構築などを知り尽くした専門家に、初期段階から相談できる仕組みがあることで、社員は一人で抱え込まずに済みます。

企業としては、外部相談窓口を福利厚生や研修として導入することも、ひとつの支援策になります。

「親に拒否されて動けない」状態に専門職が伴走する

社員が「親に拒否されて動けない」と絶望する前に、「プロによる戦略的な介入」という選択肢を提供すること。

それが、介護離職を防ぐための大切なアプローチとなります。

遠距離介護支援では制度に乗る前のグレーゾーンへの対応が重要

今回のケースは、まだ介護保険がスタートする前の段階です。

しかし、企業にとっての損失、つまり社員の生産性低下や離職リスクは、この段階からすでに始まっています。

介護保険が始まる前から社員の負担は始まっている

介護は、制度につながってから始まるものではありません。

家族が異変に気づき、不安を抱え、どう動けばよいかわからずに悩んでいる段階から、すでに支援は必要とされています。

家族と親の間に立つ第三者の存在が支援の鍵になる

制度に乗る前の「グレーゾーン」で、専門職がどのように動くか。

ここに、ビジネスケアラー支援における重要な視点があります。

一般社団法人「けあとともに」では、こうした現場視点を大切にしながら、働く人とそのご家族を支えるビジネスケアラー支援を行っています。

まとめ|遠距離介護を家族だけで抱え込ませないために

遠距離介護 支援において大切なのは、家族だけで抱え込ませないことです。

そして、支援を拒む親と、遠方で働きながら不安を抱える家族の間に立ち、必要なタイミングで必要な支援につなげていくことです。

制度やサービスにすぐつながれない段階だからこそ、専門職による伴走が必要になります。

介護離職を防ぐためにも、企業は社員の見えにくい介護負担に早い段階で気づき、外部の専門家へ相談できる環境を整えておくことが重要です。

ビジネスケアラー支援・介護離職防止のための
研修・組織開発に活用できる「けあことば100選」を資料(PDF)にまとめました。

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この記事を書いた人

中澤 友紀のアバター 中澤 友紀 正看護師

訪問看護ステーションや定期巡回随時対応型訪問介護看護の管理者として、10年以上にわたり在宅ケアの最前線に携わりました。

「兵庫県定期巡回随時対応型訪問介護看護協議会」の設立に関わり会長に就任するなど、普及促進事業を通じ多くの利用者様とご家族を支援。

私生活では2児の母。長年パーキンソン病の母を在宅で介護し、看取りまでを経験した元ケアラーでもあります。

現在は、自身の経験と専門知識を活かし、企業の「介護離職防止支援」や無料介護相談窓口「これからサポート」を運営。

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