【事例】「単なるメンタル不調」の裏に隠れていた遠距離介護

「急な欠勤の増加」「パフォーマンスの低下」「情緒の不安定さ」

職場において、これまで真面目に勤務していた社員にこうした「異変」が現れた際、多くの管理職や人事担当者は「メンタルヘルスの悪化」や「業務過多」を疑うのではないでしょうか?

しかし、その背景を深く紐解いていくと、「誰にも相談できず、一人で背負い込んだ介護問題」が真の原因であるケースは少なくありません。

今回は、真面目ゆえに私生活の負担を言い出せず休職に至った社員が、社外の専門リソース(産業医・カウンセラー)との連携をきっかけに状況を好転させ、復職へと至った実例をご紹介します。

この記事を書いた人

宮﨑徳仁
産業保健コンサルタント

医療法人愛光会 労働衛生コンシェル所属。

兵庫県尼崎市出身。2017年より産業保健業界に携わり、8年間で50社以上の労働衛生管理を支援。

年間200件以上の産業医面談を担当し、メンタル不調者対応や休職・復職支援を得意としています。

労働人口減少下での離職防止、メンタルヘルス対策、ハラスメント防止が不可欠と考え、

産業カウンセラーの資格を活かして人事労務担当者と伴走し、産業保健の視点から職場環境改善に取り組んでいます。

目次

表面化した「勤怠の乱れ」と「周囲への摩擦」

中堅社員のAさんは、責任感が強く誠実な仕事ぶりで周囲からの信頼も厚い社員でした。

ところがある時期を境に、体調不良による突発的な遅刻や欠勤が目立つようになります。

出社しても集中力を欠き、業務上のミスが続いたことから、上司は業務負荷を軽減するために別メンバーによるサポート体制を整えました。

しかし、普段は温厚なAさんがサポート役の同僚に対して余裕のない強い態度を取ってしまうなど、職場内での摩擦も発生。

事態を重く見た上司は、複数回にわたり丁寧な個別面談を実施しました。

そこでようやくAさんの口から語られたのは、「遠方に暮らす両親の介護に限界を迎えている」という切実な実態でした。

なぜ、本人はSOSを出せなかったのか?

実はAさんは、数年前から遠方で暮らす親の介護に関わっていました。

当初はもう一方の親が自宅で看ていたものの、その親自身も突然の病に倒れて入院・要介護状態となり、事態は一変します。

  • 兄妹はいるが、距離や家庭の事情で実務を担えず、Aさんに手続きが集中
  • 平日は仕事、週末や夜間は施設探しや自治体との手続き、入所先との頻繁な連絡に追われる日々
  • 遠距離のため移動の負担と費用が重なり、精神的・肉体的に困窮

限界に達していたにもかかわらず、なぜAさんは職場に相談できなかったのでしょうか。面談の中でAさんは、こう打ち明けました。

介護はあくまでプライベートの事情です。なので、家庭の課題で仕事に支障をきたしていることを、会社に言い出すことはできませんでした。

真面目で責任感の強い社員ほど、「私生活の都合を職場に持ち込んではいけない」「自分で何とかしなければならない」と抱え込み、結果として心身をすり減らしてしまいます。

最終的にAさんは精神科の受診と同時に、休職を余儀なくされました。

休職から復職へ向かった「ブレイクスルーの要因」

休職に入ったAさんに対し、会社は外部の専門リソースである「産業医・産業カウンセラー」を活用した面談を実施しました。

これが解決の大きな転換点となります。

カウンセラーはAさんの苦しみに寄り添うと同時に、「介護を一人で抱え込まず、関係者へ適切に分散するアクション」を具体的に助言しました。

入所先施設の「相談員」に自身の限界を伝えた

これまでAさんは「家族としての責任」から、施設からの連絡や要望をすべて一人で受け止めていました。助言を受け、施設の生活相談員に対し「自身が心身のバランスを崩して休職に至っている現状」を正直に伝えました。

状況を把握した相談員はAさんの負担に深く配慮し、利用可能な行政支援や介護保険サービスの調整を積極的に主導してくれるようになりました。

家族(兄妹)に役割分担を要請した

本人の状況を踏まえ、遠方の兄妹にも現状を共有。

「本人の説得」や「今後の方向性の決定」について兄妹が前面に立って介入してくれる体制へと組み替えました。

手続きの目処が立ち、心理的負荷が大幅に軽減

外部リソースと家族へ役割を分散できたことで、Aさんが一人で背負っていた膨大な手続きやプレッシャーは劇的に解消。

心療内科での治療と並行しながら、前向きに復職に向けた準備を進めることができるようになりました。

企業の介護離職防止における「3つの教訓」

本事例は、上司の真摯な面談姿勢と外部専門窓口の適切な介入によって、最悪のシナリオ(離職)を防ぐことができた好例です。ここから企業が学ぶべき教訓は3点あります。

本事例から学ぶ介護離職防止のポイント
  • 勤怠不良やメンタル不調の背景に「潜在する介護」を疑う
  • 社内には言い出せない「私生活の悩み」を受け止める社外相談窓口を置く
  • 「業務の軽減」だけでなく「介護体制の分散(外部リソース活用)」を支援する

それぞれ詳しく解説していきます。

「勤怠不良」を単なる労務問題・メンタル問題で終わらせない

真面目な社員の急な欠勤や態度の変化には、必ず背景があります。

「プライベートの課題を会社に相談してはいけない」と思い込んでいる社員に対し、面談等で「家族の介護や健康問題など、抱えている事情はないか」と踏み込んで確認する視点が不可欠です。

社外相談窓口(産業医・カウンセラー・介護相談窓口)の重要性

社内の上司や人事には「評価への影響」を恐れて言えないことでも、守秘義務のある第三者の専門窓口であれば早期に打ち明けられるケースが多々あります。

不調に陥る前、あるいは休職に至る前の初期段階で相談窓口が機能していれば、休職そのものを回避できた可能性もあります。

介護の解決策は「業務の調整」だけではない

企業ができる両立支援は、短時間勤務や休暇の付与といった「社内制度の適用」だけにとどまりません。

本事例のように、「外部の介護専門職(相談員・ケアマネジャー)にどう現状を伝え、どう頼るか」という具体的なノウハウをアドバイスすることが、社員を抱え込みから救い出す決定打となります。

まとめ

介護は、ある日突然始まり、育児のように「終わり(子どもの成長・自立)」が見えにくいという特徴があります。

「社員が何も言ってこないから、我が社には介護の問題はない」

そう考えている企業ほど、水面下で限界を迎えた社員の突然の休職・離職というリスクに直面します。

社員が孤立して抱え込む前に、異変に気づける体制と、専門家につながる相談ルートを整えておくこと。

それが、貴重な人材を守り、企業の持続可能性を高める「介護離職防止」の第一歩です。

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この記事を書いた人

医療法人愛光会 労働衛生コンシェル所属。

兵庫県尼崎市出身。2017年より産業保健業界に携わり、8年間で50社以上の労働衛生管理を支援。

年間200件以上の産業医面談を担当し、メンタル不調者対応や休職・復職支援を得意としています。

労働人口減少下での離職防止、メンタルヘルス対策、ハラスメント防止が不可欠と考え、

産業カウンセラーの資格を活かして人事労務担当者と伴走し、産業保健の視点から職場環境改善に取り組んでいます。

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