在宅介護の現場から伝えたい、一人で抱え込まない介護のあり方

本記事は、株式会社 虹のかけはしの取締役を務め、大阪市平野区を中心に訪問介護・訪問看護・居宅介護支援・障害福祉などの事業に携わっている木戸亮介さんへインタビューをした内容になります。

木戸さんが在宅介護の現場で大切にしていることや、利用者さんとの忘れられないエピソード、介護するご家族への思い、そして今後の取り組みについて伺いました。

この内容は、弊団体が運営するYouTubeチャンネル「Ikigai けあともチャンネル」の動画をコラム化したものになります。

ぜひ動画もご覧ください。

目次

在宅介護で大切にしている「未来の人生に貢献する」という考え方

僕たち株式会社 虹のかけはしでは、

「共に成長、未来の人生に貢献する」

という経営理念を掲げています。

「共に成長」というのは、スタッフと利用者さんがお互いに成長していけたらいいよね、という考え方です。

その中でも、僕たちが特に大切にしているのが「未来の人生に貢献する」という部分です。

普段僕たちが関わる方の中には、何かしらの疾患を抱えていたり、疾患後の後遺症として麻痺や言語障害などを抱えていたりする方がいます。

僕たちは過去に戻って病気になる前の状態にすることはできません。

ドクターではないので、完全に治すこともできませんし、リハビリをすれば必ず以前と同じ状態に戻れるわけでもありません。

だからこそ、介護や看護を通して僕たちのスタッフが関わることで、その先の人生に少しでも彩りを与えられたらと思っています。

「あんたが来てくれるの、ちょっと楽しみにしてんねん」

そんなふうに言ってもらえるような支援をしていきたいと考えています。

訪問介護と訪問看護の両方で在宅生活を支えています

もともとは介護の事業だけをやっていました。

ただ、在宅介護を続けていく中で、医療的な処置が必要になる方もいます。

そうなると、介護だけではすべてを見ることができません。

慣れたスタッフが窓口になっていても、医療的な対応まではできないということがあったので、約3年前に訪問看護を立ち上げました。

介護職と看護職では、考え方に違いが出ることがあります。

看護師は医療的な側面から見るため、「これは難しいよね」という判断になることもあります。

一方で、介護職は利用者さんの生活そのものを支えることが仕事です。

僕たちがずっと大切にしてきたのも、

「できない」で終わるのではなく、できるだけその人が家で過ごせる方法を考えることです。

今は看護職と介護職が一緒になって、どうすればその方が家で過ごせるのかを考えながら支援しています。

在宅介護を続けるためには、事業を継続できることも大切です

介護や看護の業界も、少しずつ変化していると感じています。

一つは、SNSの発展です。

以前は「介護職はやりたくない仕事」というイメージを持たれることもありましたが、今はSNSで現場の雰囲気が発信されるようになり、若い人たちが介護業界に入ってくる機会も少しずつ増えてきたと感じています。

看護師も、以前は病院で働くという選択肢が中心でしたが、在宅医療に興味を持つ方が増えてきました。

また、ビジネスケアラーやヤングケアラーに対する情報提供や社会的な理解も、まだまだではありますが、少しずつ広がっていると思います。

一方で、ずっと変わっていないと感じることもあります。

福祉や医療の世界では、「利益を出すこと」があまり良く思われない部分があります。

もちろん、不正な請求などは絶対にやってはいけません。

僕たちの会社でも、不正をしてしまうと、それでしか仕事ができなくなってしまうので絶対にやってはいけないと伝えています。

ただ、利用者さんを守ること、スタッフを守ることを考えれば、会社としてある程度の利益を出すことは必要だと思っています。

会社自体が継続できなければ、持続可能なサービス提供もできません。

在宅介護を支え続けるためにも、会社として健全に運営していくことは必要だと思っています。

働く前に職場を体験してもらっています

在宅介護や訪問看護のサービスを続けていくためには、そこで働くスタッフも大切です。

うちではSNSを使って日常の様子を発信しています。

ストーリーは月曜日から金曜日まで毎日更新していて、投稿やリール動画も月に8本程度出しています。

その理由の一つが、実際に働く前に職場の雰囲気を知ってもらうことです。

訪問看護事業所そのものは数多くあります。

給料が少し違ったり、車で回るのか自転車で回るのかといった違いはありますが、それ以上に、

「どんな人と一緒に働くのか」

は大切だと思っています。

そのため、入職前に職場体験を設けています。

半日ほど、実際の利用者さんのところへうちのスタッフと一緒に同行してもらいます。

できるだけ入職後のミスマッチを防ぎたいからです。

お互いに時間を使うので、入職してから「思っていた職場と違った」となることは、できるだけ避けたいと思っています。

職場体験では、お昼ご飯も大事にしています。

その時間に事務所へ戻ってきているスタッフと一緒に、お弁当などを食べます。

その後、最後に僕ともう一度面談します。

仕事中の雰囲気だけではなく、実際にどんな人たちと一緒に働くのかまでイメージしてもらうことが大切だと思っています。

在宅介護の仕事で忘れられない利用者さんがいます

僕には、今でも印象に残っている利用者さんがいます。

一人目は、この業界に入ってすぐくらいの頃に担当した男性です。

阪神ファンの、かなり堅物なおじいちゃんでした。

癌の末期で、身体の状態もあまり良くありませんでした。

僕はヘルパーの資格を取って間もない頃で、週2回、その方の入浴介助に入っていました。

最初はほとんど話をしてくれなかったんですが、僕も阪神ファンだったので、阪神の話をしながら少しずつ打ち解けていきました。

後半になってから、

「木戸さんが来てくれたら、生きてるって実感できるねん」

と言ってもらったことがあります。

この言葉は今でも印象に残っています。

亡くなる2日前にも、僕が入浴に入る予定でした。

ただ、その日はバイタルの状態が良くありませんでした。

僕は「今日は入浴をやめておきましょう」と伝えました。

その方自身は、

「木戸さん来てくれてるし、風呂入りたいねん」

と言っていました。

でも、安全面を考えて入浴を中止しました。

その2日後に亡くなられました。

今になって考えると、在宅だからこそ入浴させてあげることもできたのかもしれないという心残りはあります。

仕事を続けながら、最後まで自宅で介護したご家族

もう一人、忘れられない方がいます。

重度の認知症があった女性です。

亡くなる少し前まで在宅で過ごされていました。

要介護5で、多くの人が「在宅では難しい」と判断するような状態だったと思います。

この方は、僕が初めておむつ交換をした利用者さんでもあります。

この方やご家族からは、本当にいろいろなことを教えていただきました。

特に印象に残っているのが、娘さんの関わり方です。

娘さんは上場企業の役員をされていました。

仕事を続けながら、お母さんを最後まで自宅で介護されていました。

お母さんがまだ歩けていた頃は、仕事に行く前の朝5時に起こして、一緒にお風呂に入っていました。

夜は帰宅が遅くなるため、朝5時から7時くらいまでの2時間が、お母さんとゆっくり関われる唯一の時間だったそうです。

それを毎日続けておられました。

これだけ介護をされていた方でも、

「あの時、もっとこうしてあげたらよかった」

と今でもおっしゃいます。

現場で見ていた僕からすれば、本当によく介護をされていたと思います。

それでも家族としては、どれだけやっても後悔が残ることがあるのだと感じました。

認知症があっても、昔の記憶が鮮明に戻る瞬間がありました

その女性のご自宅には、大きなひな人形がありました。

毎年そのひな人形を飾っていたんですが、当時は階段を上がることが難しくなっていました。

娘さんが、

「お母さんにひな人形を見せてあげたい」

と言われたので、僕がおんぶをして2階まで上げました。

当時、その方は車椅子に長時間座っていることも難しい状態でした。

でも、2階に上がって普通の椅子に座り、ひな人形を見た瞬間、その時だけすごくしっかりされたんです。

娘さんのこともきちんと理解されて、

「これ、お雛さんやな」

と話されました。

僕はその時、人間の記憶はすごいなと思いました。

大きな刺激があることで、昔の記憶が鮮明に戻り、これだけ話せるようになることがあるんだと感じた出来事です。

在宅介護では「安全」と「その人らしい生活」の間で迷うことがあります

在宅介護には、施設とは違った難しさがあります。

自宅には、その方自身の生活があります。

僕たちは、そこにお邪魔させてもらうという感覚です。

当然、危険なことがあれば専門職として止めないといけません。

一方で、どこまで生活を制限するのかという判断はすごく難しいです。

僕自身、今でも後悔が残っている利用者さんがいます。

一人暮らしをされていた、とても元気なおばあちゃんでした。

僕のこともすごく慕ってくださっていました。

その方がある日、お風呂でヒートショックを起こして亡くなりました。

たまたまその日は僕が病院へ一緒に行く予定だったので、ご自宅を訪ねました。

何度インターホンを鳴らしても出てこなかったため、中へ入り、浴室で亡くなっているところを僕が最初に見つけました。

今でも、

「何かできたことがあったんじゃないか」

と思うことがあります。

在宅では自由に生活できる部分がある一方で、いろいろな危険もあります。

その人らしい生活をどこまで尊重して、専門職としてどこまで制限するべきなのか。

そこは日々難しいと感じています。

利用者さんとは「最後かもしれない」という思いで接しています

利用者さんと接する時に、僕が意識していることがあります。

まずは笑顔で接することです。

そしてもう一つ、

「これが最後かもしれない」

ということも意識しています。

今は僕自身がヘルパーとして利用者さんのご自宅に入る機会はかなり減っています。

それでも、顔を見に行ったり、スタッフが入っている時に少し訪問したりすることがあります。

「また来るね」

と言って家を出る時にも、

「この方と会えるのはこれが最後かもしれない」

という思いを持って接しています。

スタッフに対しても同じように、普段から感謝しています。

暑い中で動いてくれているスタッフもいます。

利用者さんに怒られたり、いろいろなことが起きたりする仕事でもあります。

困ったことがあれば、僕や責任者ができる限り対応し、働きやすい環境をつくることを意識しています。

これからも新しい仲間や新しい風を入れていけたらと思っています。

在宅介護の良さを施設にも取り入れていきたい

今後の取り組みとして、施設での訪問看護も進める予定です。

これまで在宅では、

「できるだけ家で過ごしたい」

という方を中心に支援してきました。

一方で、難病を抱えていて一般的な施設では受け入れが難しい方や、常時痰の吸引が必要な方など、行き場所に困っている方もいます。

そうした方を受け入れられる施設にしていく予定です。

施設になると、在宅と比べて外から見えにくい部分も増えます。

だからこそ、うちではこれまでと同じように、軽微な不正も絶対にしないという方針を続けます。

利用者さんもスタッフも守れる会社にしていきたいと思っています。

不正によって利益を得るようになると、そこから抜け出すのは難しいと思っています。

だから健全な運営は絶対に必要です。

今回の施設は共同で運営する予定です。

お互いに利用者さんを囲い込みたいという考えではなく、

「困っている人がいたら受け入れたい」

という思いがあります。

共同運営する側も在宅を中心にやってきたところなので、在宅介護の良さを施設にも少し取り入れていけたらと思っています。

在宅介護の悩みは一人で抱え込まないでほしい

介護が始まると、いろいろな悩みや不安が出てくると思います。

でも最初の頃は、

「何が分からないのか分からない」

という状態になることもあります。

「何か質問があったら聞いてください」

と言われても、

「何を質問したらいいのか分からない」

という状態です。

特に仕事をしながら介護をしている方の場合、仕事のことも考えなければいけません。

介護を必要としているご家族のことも考えないといけない。

いろいろなことを考えているうちに、頭の中がいっぱいになってしまうこともあります。

そうなると、気持ちもしんどくなってきます。

だからこそ、まずは一人で抱え込まないことが大事だと思っています。

地域包括支援センターでもいいですし、友人でもいいと思います。

誰かに少し話を聞いてもらうだけでも、気持ちは軽くなると思います。

話しにくければ、介護について話せる場や福祉関係の集まりなどを探してみてもいいと思います。

役所などで情報を聞くこともできます。

「うちのお母さん、お父さんはまだ大丈夫」

と思っている方も多いと思います。

だからこそ、困ってからではなく、少し早めに誰かに相談してもらえたらと思っています。

この記事を書いた人

一般社団法人「けあとともに」は、中小企業の経営者・人事担当者向けに介護離職対策を支援する非営利団体です。

一つの専門領域だけでは対応しきれない問題である、「社員の心のケア」から「組織文化の醸成」まで、

組織開発コーチ、ファイナンシャルプランナー、看護師、産業保健コンサルタント、両立支援コーチ、など多職種の専門家チームがワンストップでサポートします。

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