一人の介護から、家族全体の生活が変わる|「多重介護」の事例から考える家族支援

介護が必要になった人を、誰が支えるのか。

介護について考えるとき、「介護される本人」と「主な介護者」という関係に目が向きがちです。

しかし、私が介護や施設入居の相談に携わる中で感じるのは、実際の家庭はそれほど単純ではないということです。

家族それぞれに年齢、健康状態、障がい、仕事、生活があります。

家族の一人に介護が必要になったことで、それまで保たれていた家族全体のバランスが崩れてしまうことがあります。

今回は、私が実際に関わった一つの事例から、「本人だけではなく、家族全体を見る」という介護支援について考えてみたいと思います。

※以下は実際の相談事例をもとに、個人が特定されないよう一部情報を整理して紹介しています。

目次

認知症の夫、高齢の妻、障がいのある息子

相談の対象となったのは、70代男性でした。

男性は、高齢の奥様、肢体不自由のある息子様との3人暮らしでした。

それまでは3人で生活していましたが、男性が認知症を発症したことで、家族のバランスが大きく変わっていきました。

認知機能が低下した男性は、自分の思いをうまく伝えることや、家族にその意図をくみ取ってもらうことが難しくなり、次第に苛立ちを感じることが増えていきました。

一方、奥様も高齢です。

身体に障がいのある息子様と奥様だけで男性の介護を続けることが難しくなり、男性は入院。その後、施設入居を検討することになりました。

「施設が見つかれば解決」ではなかった

施設入居を考える場合、本人の身体状況、認知症の状態、必要な介護、費用など、さまざまな条件を確認します。

しかし、このご家族の場合、それだけでは十分ではありませんでした。

奥様自身、新しいことに対する不安が強く、ご主人が遠方の施設へ入居することにも大きな不安を感じておられました。

さらに、ご主人が施設へ入居することで、残された奥様と息子様の生活のバランスも変わります。

つまり、

「ご主人の施設をどこにするか」だけではなく、「これから家族3人がそれぞれどう生活していくのか」

を考える必要がありました。

そこで、できるだけ近隣の施設を検討し、施設選びや見学、手続きについても、いつも以上に丁寧な支援を心掛けました。

一人の専門家だけでは支えきれないことがある

このケースでは、ご主人のケアマネジャーだけでなく、息子様を支援する担当者との連携も必要でした。

さらに、ご家族の生活を維持していくため、行政への相談も含めて支援を続けました。

この事例を通して私が感じたことがあります。

家族のキーパーソンとなる人が、すべての手続きを滞りなく行える環境にあるケースばかりではない
ということです

  • 介護する側も高齢かもしれません。
  • 別の家族にも支援が必要かもしれません。
  • 仕事をしているかもしれません。
  • 健康上の問題を抱えている場合もあります。

だからこそ、介護される本人だけではなく、その人を取り巻く家族の状況を見ることが必要だと感じています。

「誰が介護者なのか」を一人に決めつけない

これは、企業が仕事と介護の両立支援を考える場合にも関係することだと思います。

従業員から、

「親の介護が始まりました」

と相談を受けたとしても、その一言だけでは家庭全体の状況は分かりません。

兄弟姉妹はいるのか。

配偶者も介護を担っているのか。

ほかにも支援が必要な家族がいるのか。

遠距離なのか。

本人がどの程度の役割を担っているのか。

同じ「介護」でも、それぞれの家庭によって状況は異なります。

厚生労働省も、企業が従業員それぞれの状況に応じて仕事と介護の両立を支援するための「仕事と介護の両立支援プラン」などを示しています。

「本人」ではなく「家族全体の生活」を見る

今回の事例で必要だったのは、認知症のご主人だけを支援することではありませんでした。

ご主人が施設へ移った後も、

奥様の生活があります。

息子様の生活があります。

そして、家族としての関係も続いていきます。

介護や施設入居の相談に関わっていると、一人の状態が変わることで、家族全体の生活が変わることを実感します。

だからこそ、ご本人のケアマネジャーや、別の家族を支援する専門職、行政などとも必要に応じて連携し、入居前から入居後まで支援していくことが大切だと感じています。

仕事と介護の両立を考えるときにも、

「介護が必要なのは誰か」だけでなく、「そのことで家族全体に何が起きているのか」

という視点を持つことが、介護する人の生活や仕事を守ることにつながるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

中澤 友紀のアバター 中澤 友紀 正看護師

訪問看護ステーションや定期巡回随時対応型訪問介護看護の管理者として、10年以上にわたり在宅ケアの最前線に携わりました。

「兵庫県定期巡回随時対応型訪問介護看護協議会」の設立に関わり会長に就任するなど、普及促進事業を通じ多くの利用者様とご家族を支援。

私生活では2児の母。長年パーキンソン病の母を在宅で介護し、看取りまでを経験した元ケアラーでもあります。

現在は、自身の経験と専門知識を活かし、企業の「介護離職防止支援」や無料介護相談窓口「これからサポート」を運営。

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